<< December 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

amazon image   amazon image   amazon image   amazon image   amazon image   amazon image   amazon image  
<< 大きく考える人が成功する | main | 天皇家の財布 >>
スポンサーサイト 

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | -
シュナの旅 
シュナの旅
シュナの旅
宮崎 駿

今ではもうすっかり有名になった宮崎駿監督だが、彼が今から20年以上に書いた(絵)本を読んだ。友人が貸してくれたので早速一読した。本自体は文庫本サイズで100ページを少し超える程度の内容で、アニメーション風に描かれている。筆者の後書きによると、この本はチベットの民話『犬になった王子』を元にして書いたという。本を書く10数年前に(原書を)初めて読んだといい、それ以来アニメーション化を一つの夢にしていたのだと述べている。宮崎駿にそこまで言わしめる原作の魅力とは何だったのか。

一読して『風の谷のナウシカ』、『天空の城ラピュタ』、『となりのトトロ』等の大ヒット作を次々に発表することとなる宮崎アニメの原型のような印象を受けた。本文の文章は決して多くない。が、しかし物語の主題ははっきりと伝わってくる。文章の多くないところを絵がしっかりと描写しているのだ。一般に本を読む際には行間を読むことが求められるものである。行間を読む力のない人は表層的なストーリー理解に終始してしまうものだ。宮崎アニメでは全体を通してその行間の役割を果たすのが色とりどりの絵であると思われる。当然、本である以上は動きや音を表現することは難しい。文章と漫画(といっていいのか?)とアニメの違いであろう。それぞれに独立した価値が存在するし、これらを単純比較することは非常に野暮なスタンスであると言わざるを得ないと思われる。ふと、この瞬間に友人が言っていたことを思い出す。「風の谷のナウシカは本で読んだ方が良い。そうでなくてはこの世界は本当にはわからない。」と。私はせっかく映像があるのになんでまたそんなことを言うのだろうと思ったものだが、恐らくこの辺りがアニメと漫画の独立した価値の違いなのだろうか。物事の評価は人それぞれであり相対的であるとしても、独立した価値の存在は認めるべきであろう。
ところで、我々が考える以上に文章と絵が良いバランスで融合するのは難しい作業ではないだろうか。行間を絵で表現すると書いたが、その作業が上手くいかなければ読者にテーマを訴えかけることは困難になるはずだ。宮崎監督の作品は人や動物の表情だけではなく無機質なものにも表情がある。彼はその作品の中だけではなく、社会全般に対し、そういった表情を見出すことが出来る人物なのではないだろうか。簡素に言ってしまえば着眼点の相違ということになろうか。いずれにしても原作を「どう読むか」ということが重要であることは論を待たない。また、原作を創作する際には作者本人が持っている物事に対する着眼点を、どのように一般にわかるように表現したかということが評価のポイントとなってくるのではないかと思われる。

本の背表紙にはこうある。「谷あいの貧しい小国の後継者シュナは、実りの種をたずさえて、はるか西方にあるという豊饒の地をめざす。その地には、人々の飢えを除く黄金の穀物が美しく輝いているというのだ」と。ストーリーの全てを紹介することはとてもできないが、要するに趣旨は本の背表紙の通りである。その黄金の穀物にたどり着くまでの主人公シュナの紆余曲折を描いている。
シュナは正義感に燃え、黄金の穀物をもって自国の国民を豊かにさせるため、西方に向かうことを決心する。そして彼は掟を破り旅立つ。このくだりなどは国民の生老病死に心を痛め、王子の地位を捨て出家の旅に出た仏教の創始者「ブッダ=釈尊」とよく似ていると感じた。ストーリーにつきもののヒロインも登場する。たどり着いた途中の国で奴隷として売られていた少女姉妹を商人から救出する。姉をテアといい、シュナを陰ながら支える存在になる。この展開はテアに会うシーンから先が読めるのだが、そこに不思議と違和感はない。現在の社会では物事をまっすぐ受け止めることがなかなか出来ないのも現実だが、不思議と宮崎アニメにはその力があるような気がしてならない。最終的に困難を乗り越えてシュナは「黄金の穀物」を手に戻ってくる。その入手までの困難の度合いを示すように、人格崩壊を示すシュナを支えるテアの構図がここに確立する。黄金の穀物が生育していく過程に伴ってシュナの回復も並行するのだが、テアの献身的な介抱が二人の生命を近づけていくのは自然すぎるほどの流れである。やがて黄金の穀物はその実をつけ、シュナが介抱されていた村を豊かにしていく。シュナにも人格が戻り、本来の目的である谷あいの貧しい小国に戻っていく。その途中にも困難があることが描写され、筆が置かれている。
驚くのは私がこうして書評をするこの瞬間瞬間にも、先ほど読んだばかりのストーリーの光景や配役たちの表情が脳裏に鮮やかなことだ。こういった類の本を読むのは久しぶりであった。新たな境地を知るというか、認識を新たにするというか、シュナの「実り」とは違うわけだが、私個人としての収穫は大きかったように思う。

この『シュナの旅』に限ったことではないが、もう一度宮崎アニメを見てみようかなと率直に思った。宮崎駿という人間の価値観により深く触れてみたいという思いがしたのと同時に、自己が持つ本質的に個性的であるはずの着眼点を上手に社会に現出していく力をつけたいとも感じた。その着眼点を社会と共有できた際の喜びはいかばかりであろう。それも全て我が身にかかっているものだと再認識した気がする。アニメ『アルプスの少女ハイジ』で当時製作スタッフの一員だった宮崎駿は、登場する「ヤギの鈴の音」をアルプスまで生録音しに行ったのだという。こだわりといった視野だけではなく、自分の伝えようとすることに対し率直なスタンスが彼をここまでのし上げたのあろう。他者に自己世界を提示する際にはその位の緻密さと情熱が必要不可欠なものなのだと、宮崎駿はその身で教えているのだろうと思う。
| 本ココ! | 16:27 | comments(1) | trackbacks(2)
スポンサーサイト 
| - | 16:27 | - | -
コメント
 今年の秋に岩波書店から出版される拙作絵本『犬になった王子(チベットの民話)』の原話は、宮崎 駿氏の『シュナの旅』の原話と同じ、君島久子先生の名作民話です。  
 私は小さい時より宮崎 駿アニメの大ファンで、『シュナの旅』も中学の時に読んで以来、私の最も大切な作品の一つになっています。
 機会がありましたら、私の絵本作品をご覧下さいましたら有難いです。よろしくお願い申し上げます。  日本画家・絵本画家 後藤 仁
| 後藤 仁 | 2013/07/28 10:36 AM |
コメントする









この記事のトラックバックURL
http://read.jugem.jp/trackback/16
トラックバック
『シュナの旅』街を捨て書を読もう!
『シュナの旅』 著:宮崎駿 徳間書店アニメージュ文庫 今回紹介する本は『風の谷にナウシカ』や『ハウルの動く城』など数々の名作アニメを監督した宮崎駿が80年代に書いた絵物語です。この作品はとても地味な作品で、知っている人も少ないと思いますが、宮崎駿の
| オン・ザ・ブリッジ | 2006/05/04 11:01 PM |
シュナの旅
★★★★ 徳間書店アニメージュ文庫で
| ぶー書店 | 2005/10/28 2:03 PM |
selected entries
categories
archives
recent comment
recent trackbacks
mobile
qrcode
links
profile